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100年を彩った品種たち

Episode 08 ペチュニア
進化しつづける花壇の女王

今や世界中の花壇を彩る花の女王といえるペチュニア。その育種の始まりは2つの野生のペチュニアの交配でした。

1767年にフランスのプラントハンターが南米に自生するペチュニア「アキシラリス」を発見しました。その後同じ南米原生のペチュニア「インテグリフォリア」がヨーロッパに渡りました。この2つの野生種を元に、欧米でペチュニアの改良が始まり多様な品種が生まれたのです。

19世紀中ごろ、品種育成が盛んに行われたフランスでは、八重咲きの花が突然変異として現われ珍重されました。ところがその再現性は低く、繁殖の方法は挿し木しかなく、タネをつくることも困難でした。また、一重咲き品種との交配においても八重咲きの花が咲く確率は低かったのです。

インテグリフォリア

アキシラリス

しかし、当時の日本の国立農事試験場に勤務していた禹 長春(う ちょうしゅん)氏が、1920年代にその仕組みを研究し、解明したのです(発表は1930年)。サカタのタネはその技術を生かし1930年代には「サカタマジック」といわれた世界初の完全八重咲きF1ペチュニア「ビクトリアス ミックス」をつくりあげ、1934年にはオール・アメリカ・セレクションズ(AAS)に入賞しました。

ドイツの種苗会社ベナリー社の紹介もあり、一時は末端価格で金の20倍にあたる、1ポンド(約454g)10,656ドルという破格の値段で取引をされたこともありました。

第二次世界大戦とそれに続く戦後の混乱期に、同様の完全八重咲き品種をアメリカの種苗会社も開発、販売し、市場を独占したため当社にとって非常に厳しい時代を迎えました。そのような中、「ビクトリアス ミックス」で培ったF1技術で赤地に白いすじ模様が入るスター咲き品種「グリッター」をつくり出し、これが1957年にAASに入賞。当社は、花のF1の時代を切り開くと同時に世界有数の種苗会社へ成長していくことになります。

ペチュニア「ビクトリアス ミックス」

20世紀中盤最新品種のグリッター左、21世紀のペチュニア「バカラ レッド」半世紀でこれくらい品種育成が進んだ

白黒印刷の時代カラーで表紙を飾った
「グリッター」

その後、20世紀の終わりごろから花壇苗産業がアメリカで急成長し、世界中に広がりました。その結果、大量生産に適するよう、生産性を高めた種苗が必要となりました。そのような中、サカタのタネは次々とペチュニアの品種育成を進め、市場性、早生性、コンパクト性、高発芽性などに対応する品種を生み出したのです。

1983年にはペチュニア「レッドピコティー」、2003年にはペチュニア「メルリン ブルーモーン」がAASに入賞し人気を博しました。

レッドピコティー

メルリン ブルーモーン

1990年代半ば、日本のガーデニングブームのころには雨に強く、匍匐性の他社品種がセンセーショナルなデビューをはたしたこともあり、匍匐しながら大きく育つ性質の「クリーピア®」シリーズや中輪でコンパクトな花つきの花壇苗として「バカラ」シリーズがこのようなペチュニアの代名詞になりました。

また、2008年に発表された「スーパーカル®」はペチュニアの近縁の「カリブラコア」との属間雑種で、鮮やかな色と雨にも強い花びらを持ち、ペチュニアの特徴である花や茎のべたつきをおさえた、手入れがしやすいユニークな栄養系品種(挿し芽などタネ以外の方法で繁殖させる品種)です。

バカラシリーズ

「スーパーカル®」シリーズ

近年では、環境に対する価値観の高まりの中、より少ないエネルギーコストで生産できる作物が求められています。そのような中、2012年には「エコチュニア®」を発表。この品種は冬期、より低い温度で開花し早生性、コンパクト性などに磨きをかけた品種です。そのため、暖房の燃料費が節約でき環境にやさしい品種となりました。

エコチュニア

現在、ペチュニアは春の花壇苗の中で最も多くの数量が流通し、世界的に育種が盛んに行われています。南米の原野に咲くペチュニアは欧米を経て、世界に広がりました。そして、そこにはいつもサカタのタネの情熱がかかわってきました。

今後もペチュニアは進化しつづけ、世界中の花壇を彩って人々を楽しませてくれることでしょう。