ロゼットレスタイプのトルコギキョウ 写真左:従来品種、右:ロゼットレスタイプ

サカタのタネは極めてロゼット※1しにくい性質を持つロゼットレスタイプのトルコギキョウを開発しました(=写真左:従来品種、右:ロゼットレスタイプ)。開発には特許技術を使用しています※2。ロゼットは温度が高い条件下の育苗などで発生するトルコギキョウの生理現象で、切り花の採花ロス、品質低下、生産遅延による栽培期間の長期化につながるため、かねてより国内外で営農上の重要な課題となっています。日本のトルコギキョウ栽培では初夏から秋口の高温期に播種・育苗を行う場合、種子冷蔵※3や苗冷蔵※4、冷房育苗※5などの栽培管理によってロゼットを回避する方法が主流ですが、空調設備の設置や天候に応じた温度調節など高額な費用と管理の手間がかかります。ロゼットレスタイプの品種は、それらの栽培管理が不要なため設備コスト削減や管理の省力化に貢献します。アジアの亜熱帯地域では、冷蔵設備がなくロゼット化が深刻な影響を与える産地もありますが、本品種を使用することで収穫できる切り花の本数増加も期待できます。

またロゼットレスタイプの品種は2番花※6を出荷する産地にもメリットがあります。仮にロゼット回避のための育苗管理を行っても、その効果は2番花の生育時期まで継続しません。一般的に2番花の生育期間は高温や日照時間が短い短日期であったりとロゼットしやすい栽培条件となることが多く、ロゼットが発生した場合には抽苔※7を促すため薬剤を散布する場合があります。ロゼットレスタイプの品種は遺伝的にロゼットを起こしにくいため2番花の生育期においてもロゼットが起こりにくく、薬剤コストを削減し、計画的な出荷を実現することができます。世界初の無花粉トルコギキョウの開発など画期的な品種を生み出してきた当社は、今後もトルコギキョウのリーディングカンパニーとして、現場の課題を解決し、世界中の生産者の方により安心して栽培いただけるよう本品種の製品化を進めてまいります。

品種の力でロゼットを根本的に解決、ロゼットレス品種がもたらすメリット

国内外でロゼットが問題視されたのが主に1990年代から2000年代の前半です。その後、種子や苗の冷蔵、冷房育苗といった栽培技術を用いてロゼットを回避する育苗技術が開発され、ロゼットへの対策が講じられました。しかし徹底した温度管理が必要なトルコギキョウ栽培において育苗中の緻密な温度管理は栽培における難しさの一つでした。

もっと安心してトルコギキョウを栽培していただきたい—。種苗メーカーである当社は栽培技術でロゼットを回避することがトルコギキョウ栽培の常識となりつつある中、品種の特性によりこの課題を解決しようと長期にわたり研究開発を進めてまいりました。

ロゼットレスタイプの品種は、トルコギキョウ生産における管理の省力化、とりわけ、昨今大きな課題となっているエネルギーコストの削減が期待できるだけではなく、設備投資の必要性や栽培管理の複雑さからトルコギキョウの生産が難しかった地域でも新たに栽培を始められる可能性を持つ品種です。同品種の開発によりトルコギキョウの栽培が一層拡大していくことを期待しています。

トルコギキョウのプラグ苗を用いた抽苔株数の試験結果

試験概要:ロゼットレスタイプトルコギキョウと従来品種を種子冷蔵なし、高温条件(昼温-夜温:32℃-23℃、12時間日長)で栽培し、ロゼット発生の有無について調査

使用品種:他社品種X、自社品種Y、ロゼットレスタイプトルコギキョウA(SM0-190)、ロゼットレスタイプトルコギキョウB(SM0-400)

種子冷蔵処理なし、高温条件の育苗における抽苔株数の推移

128穴セルトレー使用

試験結果:ロゼットレスタイプトルコギキョウは種子冷蔵処理なし、高温条件下でも高い抽苔率を示した。

※千葉大学環境健康フィールド科学センター試験実施報告書より

さまざまなイベントシーンで活躍するトルコギキョウ

その見た目の華やかさや花持ちのよさから日本国内では冠婚葬祭などさまざまなシーンで広く利用されているトルコギキョウ。海外では自宅に飾って楽しむホームユースの需要が高いです。オランダのRoyal Flora Holland 市場は世界有数の花き市場ですがトルコギキョウの流通量が増加しており、取り扱い金額はバラ、キク、チューリップ、ユリ、ガーベラに続く6番目となります(2020年Flora Holland市場販売金額ベース)。近年では世界的に、豪華な花形のフリンジタイプの人気が高まっています。

フリンジタイプのトルコギキョウ例 「ボヤージュ®(2型) ライトピンク」

  1. ロゼット:節間が非常に短くなった茎に葉が重なって付き、その姿がバラの花のようになっていること。

  2. 当社は、下記に示す特許技術の独占利用権を取得しております。
    権利者(出願人):YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM LTD. (イスラエル)
    日本特許番号:JP6860481B2、米国特許番号:US10750701B2、中国特許番号:CN107347248B、ベトナム特許番号:VN53281B、欧州特許番号:EP3223602A1、カナダ特許番号:CA2968515A1、インド特許番号:IN201727020662A、国際特許番号:WO2016084077A1 (2022年6月27日現在)

  3. 種子冷蔵:吸水させた種子を低温の環境に一定期間置く技術。

  4. 苗冷蔵:苗を冷蔵庫等で保存し、定植後のロゼット発生を回避する技術。

  5. 冷房育苗:特に夏などの温度が高い時期、冷房装置で育苗温室内の温度を日中温25℃、夜温15℃を目安に設定した環境で植物の苗を育苗すること。

  6. 2番花:一度切り花を収穫したのち、再度株の基部から発生した新芽を生育させて収穫した切り花のこと。

  7. 抽苔:節間が詰まった状態で葉の展開を続ける植物の茎が、ある条件下に置かれることで花芽形成を行うとともに、花茎が伸長すること。