サカタのタネは、F1種子イチゴ品種の早期商品化を目指し、2023年11月から研究、生産、営業が一体となった取り組みを開始します。
日本のイチゴ品種は食味のよさから国際的にも高く評価されています。一方、その特徴的な柔らかさのため、日持ち性や輸送性に課題があります。また、栽培時に問題となりやすい病害も地域ごとに異なります。日本のイチゴの高食味と輸送性を両立させ、栽培する地域で求められる耐病性を付与することを目指し、当社では2016年からイチゴ育種を計画し、2018年から開始しました。また、2017年には、三重県、香川県、千葉県、九州沖縄農業研究センターが共同で開発したF1種子イチゴ「よつぼし」の種苗販売権を得て、カナダや米国を中心に販売し、各地域における需要など知見を得ました。
従来、イチゴは世界的にも親株から増殖させる栄養系品種が多く使用されています。しかし、栄養繁殖には(1)親株の管理や採苗の労力、(2)親株からの病害感染リスク、(3)苗の定植時期の制約、という課題があります。当社ではこれらの課題解決のため、種子で繁殖できるF1種子イチゴ品種(四季なり)の開発に取り組んでおり、すでにグローバルで試験栽培を開始しています。
当社では商品化に向けた動きをさらに加速させるため、このたび、研究、生産、営業が一体となった取り組みを始動しました。商品化に向けて社内一丸となりF1種子イチゴビジネスを進めてまいります。
日本のイチゴ品種 世界での可能性
日本でイチゴといえば生食用がメインです。毎年新しい品種が開発され、日本のイチゴの食味は世界的に見ても高い水準にあります。統計を見ても、日本からのイチゴ青果の輸出額は2017年に17億9853万円から2022年には52億4163万円(※)と急激に伸びており、日本のイチゴへの海外需要はこれからも期待できると考えられます。
一方、日本のイチゴ品種を海外で栽培する場合、ライセンスの問題はもちろんですが、求められる耐病性、青果の輸送性に違いがあり、一筋縄ではいかないのが現状です。当社は日本のイチゴならではの高食味と、栽培する地域で求められる耐病性、輸送性の両立を目指し、品種開発を進めてまいります。
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農林水産物輸出入統計より
種子繁殖系イチゴ品種の可能性
イチゴは一般的にランナーと呼ばれるツルの先にできる小株を増やすことで増殖させます。これによって増殖した株はすべて親株のクローンとなるため、同じ形質を持った株を生産できます。しかし、親株が病害虫やウイルスに感染していると、子株にも伝染し、生産現場で深刻な被害をもたらします。また、親株の管理、採苗の労力やランナーを這わせるスペースも必要です。
一方、種子繁殖系イチゴでは、育苗時の病害虫感染や親株の管理、子株の採苗などの栽培労力が低減され、使用農薬の低減にもつながります。また、育苗期間は栄養繁殖では6か月以上だったのに対し、種子繁殖では約2~3か月と大幅に短縮できます。ランナーで増やす場合は育苗時期が限定されますが、種子繁殖の場合は播種や育苗時期のコントロールが容易であるため、通常の施設栽培はもちろん、回転率や収益性が重視される完全閉鎖型植物工場での利用にも適しています。
種子繁殖系イチゴと植物工場
種子繁殖系イチゴの特性が最大限に発揮される場所として、完全閉鎖型植物工場が挙げられます。完全閉鎖型の植物工場とは、建物の中で光、温度、水などを人工的に管理する施設で、露地やハウスと異なり、病害虫が侵入しにくいことがメリットの一つです。そのため、外部からの病害虫の持ち込みに対しては非常に厳しく、親株からの感染リスクがない種子繁殖系イチゴ品種を求める事業者が多いと考えられます。また、植物工場は露地やハウス以上に面積当たりの収量が経営に直結するため、栄養繁殖と比べて育苗スペースが少なく済むことも種子繁殖系イチゴのメリットの一つです。
日本のイチゴ、さらなる需要拡大へ-株式会社サカタのタネ 海外営業本部長 中井智二
「当社は日本国籍のグローバルな種苗会社として、野菜と花においてさまざまな新しい商品を開発し市場へ供給してまいりました。このたび、世界的に人気のあるイチゴにおいて、日本のイチゴの食味の良さに加えて、耐病性と輸送性を向上させた種子系のF1イチゴを開発し供給する事で、生産者の労力と環境への負荷を減らし、品質のよいイチゴの需要喚起と市場拡大につながることを期待しています。当社のこれまで培った品種開発力、種子生産力、営業力を結集し、世界におけるイチゴのリーディングカンパニーを目指します」
(株式会社サカタのタネ 上席執行役員 海外営業本部長 中井智二)