サカタのタネのウェブサイトでは「新品種」「品種の育成」というように、「品種」という言葉がよく出てきます。「品種」は、植物学と農園芸業とで意味合いが異なることがあり、定義が難しいですが、ここでは種苗会社における「品種」についてごく簡単にご説明します。

「品種」とは

品種は「常にある特定の能力や特徴を発揮できるように遺伝的な改良がなされた植物」のことです。性質(病気への強さや食味)や外見(色や形)により、ほかの植物と区別することができます。

花や野菜には「ヒマワリ」「パンジー」「ミニトマト」「メロン」など種類を表す用語があります。これらは品目の名称で、特定の花や野菜の品種を表す用語ではありません。さらに詳しく、ヒマワリ「ビンセント」、ミニトマト「アイコ」、メロン「アンデス」と言うと、それぞれの品目の中でも、ある特定の花や野菜の品種を指すことになります。「ビンセント」「アイコ」「アンデス」が品種の名称です。

例えば、ミニトマト「アイコ」をタネや苗から栽培すると、病気に強いという能力を発揮して成長し、実がプラム型の形をした「アイコ」が実ります。このように、「常にある特定の能力や特徴を発揮できるように遺伝的な改良がなされた植物」のことを品種といいます。

固定種とF1

品種には、大きく区分すると「固定種」と「F1種(交配種)」と呼ばれるものがあります。

「固定種」は昔から変わらずに栽培されているものに多く見られます。自然淘汰(とうた)や、人間の選抜によってある一定の特性が固定している品種です。固定種には、地域の土質や気候条件に適した数多くの品種があります。

「F1種」は性質の異なる親を交配して生まれる雑種第一代のことです。簡単にいうと、「遺伝子AAという父親植物」と「遺伝子BBという母親植物」を掛け合わせた雑種ABを指します。雑種ABを利用することで、次のような近代的な農業に適した品種を作りやすい特徴があります。

  • 父、母の親系統のよい形質を、両方兼ね備える。

  • 生育旺盛になるため不良環境下でも栽培しやすい。

  • 色や形、味など品種特性の均一性が高くなる。

  • 早く、そろって成長するため収穫しやすい。

  • 病気に強い。

など、さまざまな特徴があり、種苗会社ではこれらの特徴を利用し、新品種の育成を行っています。

種苗会社では固定種とF1種のどちらも生産・販売しています。F1種は花や野菜などを栽培する生産者にも消費者にも大きなメリットがあるため、近代農業の現場ではF1種の利用が多くなっています。ただし、豆類やレタスなどは植物学的にF1種が作りづらいため、現在でも固定種が中心となっています。

F1種とは?

F1種(First Filial Generation)は、日本語では「雑種第一代」「一代雑種」といわれています。同じタネの中でも、遺伝的に差異のあるもの同士(母親×父親)を組み合わせると、雑種強勢(ヘテロシス)と呼ばれる現象が現れます。これを利用したものがF1種です。F1種は雑種強勢を利用しているため、生育が盛んで栽培が安定します。また、形質のそろいがよく、同じ形の花や野菜を実らせることができます。F1種を育てて採れた種子(F2世代)では形質がバラつき、ふぞろいになります。

F1種はどのように作られるの?

遺伝的に差異のある母親と父親をある種(しゅ)の中から選び出して、これを遺伝的にある程度固定化させたものを掛け合わせて採れる種子がF1種です。

F1種の育種イメージ

ある特定の形質を持つ系統を選び出し、これを何世代も選抜を繰り返すことで親系統を作ります。また別の形質を持つ系統を同様に選抜を繰り返し、もう一つの親系統を作ります。この二つの親系統を交配して採れた種子がF1種です。