種苗の世界では、育種のための材料である遺伝資源は新品種の開発に欠かせないものです。例えば従来の品種に、優れた特性をもった遺伝資源を掛け合わせることで、より付加価値の高い品種を生み出していくことも可能です。このように開発された花や野菜の品種は非常に価値が高く、それを栽培する生産者に大きな利益をもたらします。このように、サカタのタネのような種苗メーカーにとっては、遺伝資源の確保は大変重要となります。

私たちは、生物多様性への対応は、持続的な研究開発を担保していく上で非常に重要であると考えており、2000年に「遺伝資源室」を発足させました。海外から導入される遺伝資源の管理をはじめ、新たな遺伝資源を入手するために、資源国との交渉活動などを実施してきました。これらに率先して取り組むことで、世界の種苗メーカーに先駆けてノウハウを蓄積しています。生物多様性に富んだ世界の資源国と地域に対してアプローチし、生物多様性条約の理念に基づき、遺伝資源を入手すること、そして遺伝資源から生まれる利益を資源国にも公平に配分していくことに取り組んでいます。このような活動の結果として、生物多様性が保全されると考えています。

次世代園芸植物「サンパチェンス」の開発 インドネシアでの事例

インドネシアはまさに生物多様性の宝庫で、高等植物の数は世界4位の約3万種ともいわれています。私たちは、すでに世界的な市場ができつつあるものの、直射日光と暑さや病気に弱く、花壇のメインプレイヤーになりきれていなかった「ニューギニアインパチェンス」に注目しました。直射日光に耐えられる品種を作るためには新たな遺伝資源が必要であると考え、自生地であるインドネシアにアプローチを開始、交渉を重ね、利用についての合意をかわし、探索がスタートしました。新たな遺伝資源の探索と素材の評価は、インドネシア農業研究開発庁(略称IAARD)と共同で行われました。

その成果として、サンパチェンスは2006年に誕生しました。従来のインパチェンス属と異なり、直射日光に強く、「太陽に耐える」ことができるため、太陽の「サン」と忍耐の「ペイシェンス」を合わせて「サンパチェンス」と名付けられました。サンパチェンスの大本になった植物は、自生地ではほとんど注目されていなかった地味な草花ですが、可能性を感じたサカタのタネのブリーダーが品種改良を重ね「サンパチェンス」という新しい花を作り出しました。
サンパチェンスは現在では、日本を始め、欧米、ブラジル、中国や韓国など、世界中で花を咲かせています。またこれまで、国際的な賞をいくつも受賞しており、新たな花のジャンルとしても認められています。サンパチェンスの販売利益の一部は、インドネシアに還元されており、同国からも高い評価を受けています。

インドネシア政府との共同探索によって得られた遺伝資源から開発した「サンパチェンス」の画像

インドネシア政府との共同探索によって得られた遺伝資源から開発した「サンパチェンス」シリーズ

循環型遺伝資源開発モデル

サカタのタネは、資源国との共同探索、評価、そこで得られた遺伝資源を元にした商品開発と販売を経て、そこから生まれた利益を資源国に配分していくという、循環型の遺伝資源開発モデルを作り上げてきました。利益配分には、ロイヤリティーの支払いだけでなく、探索や評価のノウハウや技術協力など非金銭的なものも含まれており、これがさらなる探索の原資となります。双方に利益のあるWin-Winの関係を構築することで、持続的にこの車輪を回し、今後も新たな遺伝資源を入手してまいります。

これらの活動は、非常に長期的な視点に基づいた取り組みのため、短期的な利益に直結するものではありません。しかしながら、研究開発が競争力の根源であるサカタのタネの持続的な成長のためには欠かせない取り組みです。今後も遺伝資源の利活用についてよりよい協力体制を構築する努力を続け、人類のかけがえのない財産である生物多様性の保全と活用に貢献していきます。